あ、めんどくさいかも

YouTubeで、何かいい動画はないかと探していたときに、ふと思いました。
最新の情報。もっと良い情報。自分にぴったり合う情報。候補を眺めて、気になったものを見て、ほかにもないかとまた探す。

「これ、SNS中毒といっしょじゃん」

私は、SNSのタイムラインを延々とスクロールするようなことはしていません。以前ちょろっとXやインスタを使ったとき、これはヤバいものだと感じて離れることにしたためです(最近のは旧twitterの頃よりヤバさレベルが高い気がしました)。

YouTubeもそれらと本質的に同じだということに気づいていませんでした。動画だと情報量が多いからなのかなんなのかわかりませんが、まともな情報を探している感があります。細かい投稿が無数に流れていくSNSに比べ、一投稿にかけられた労力は多くなっています。こんなのがタダで見られるなんてすごいと感じる、面白い(興味深い)動画がたくさんあります。

しかし、期待を(悪い意味で)裏切るものもたくさんあります。個人の好みや趣味趣向の違いもあり、一見面白そうでも、私にとって面白いかどうかは見てみなければわかりません。その人が表現しているものと、サムネやタイトルが一致していないことも多々あります。お金が絡むことで、いい面もあれば悪い面もあります。

自分で選んでいるつもりなのに、いつまでも選び終わらない。自発的にやっているつもりだけど、コントロールされているようで疲れる。その状態が、SNSに感じたヤバさとよく似て見えました。

「よし、なら流行りのドーパミン・デトックスがいいかもしれない。ドーパミン・デトックスの動画を調べて、デジタル断ちを実践しよう」「いや、でもスマホ中毒ってわけではないし」「仕事で使うんだから極端なことはできん」「そこまで害がないなら、別にクソ動画見たっていいんじゃね」「ほどほどに見れば?」「そのほどほどが難しいんだって」

そんなこんなで考えるのもめんどくさくなったときにひらめきました。「とりあえずやってみたほうが早いかも」。仕事でも創作でも日常生活でも、やる前に考えすぎずにまずは手を動かすことにしました。それで意外と大丈夫というか、その方がむしろいろいろ捗って快適です。

最近はネット疲れやAI離れのような情報を目にするので、こんなようなことを考えている人は少なくはなさそうです。もし同じように疲れている人、距離を置きたい人が増えていったら、おすすめを次々に差し出すサービスは、どう変わるのでしょうか。自分の感覚と照らしつつ、少し調べてみることにしました。

本屋で感じる、期待と絶望

本屋に行ったとき、ずらっと並んだ書棚を一歩引いた視点で見ると、一生かけても読めない量の情報が、こんなに簡単に目の前に置かれていることに、期待と絶望のようなものを感じます。

この中に、奇跡のような出会いがあるかもしれない。今の自分が抱えている疑問に答えてくれる本や、ものの見方が変わってしまうような一冊が、どこかにあるかもしれない。

でも、それは読んでみなければわかりません。しかし全部を読むことはできないので、ほとんどの本には出会わないまま終わります。

ネットにひしめく情報にも、似たものがあります。書棚の端まで見ればひとまず終わる本屋と違って、画面には次の候補が出てきます。もう少し探せば見つかるかもしれない、という期待が続きます。

なんとなくこの感覚に近かったのが、作家のオリバー・バークマンによる、未読の本や記事を「川」として捉える提案です。読みたい情報を山ではなく川のように扱う。流れてくるものからいくつかを拾うだけでいい。という感じの話です。[1]

仮に、本当に読みたいものだけに絞れたとしても(本当に絞れたかは別として)、それでも量的には読み切れないような気がします。つまらない情報ばかりで困るというより、良さそうなものがたくさんありそうだから困る感じです。だから、不要な情報をうまく取り除いただけでは解決しません。その先にもまだ、選びきれないほどの情報が残っています。

欲しかったのは、安心だったのか

私は何を手に入れたくて、何を探していたのか。

考えてみると、純粋に楽しみたいという気持ちは、それほど強くありませんでした。自分の人生に役に立つか。何か良い影響をもたらしてくれるか。そういう損得勘定をしていた気がします。

今のやり方より、もっと良いやり方があるかもしれない。まだ知らない便利なものがあるかもしれない。どこかに「これだ」と思える情報があるかもしれない。

最初は、それを見つけられるかもしれない期待があります。でも、探しても見つからないうちに、期待は薄れていきます。それでも、見つけないまま終えるのは惜しい。もう少し探せば、何か出てくるかもしれません。

しかし、闇雲に探すのではなかなか良い結果は出ません。そもそも何を見つけたら終わりなのか、自分でも明確にできていないことが多かったです。具体的な困りごとを解決する方法なら、試してみれば役に立ったかどうかがわかります。でも、漠然と「今より良くなる何か」を求めていると、何を見つけても、まだ先がありそうに思えます。

魔法のような方法がどこかにあって、それを知ればいろいろなことがうまくいく。そこまではっきり考えていたわけではないけれど、少しはそんな期待もあったのかもしれません。

「良い情報が欲しい」と「損をしたくない」は、私の中でかなり重なっているようです。何かを知りたいというより、知らないせいで損をしていないと確認したい。時間を使った分、何か得たと思いたい。

それなら、探し続けている間に疲れるのも納得です。良いものを見つける楽しみに加えて、見落としがないかを気にする仕事まで、自分で引き受けているのですから。

ほどほどに付き合う、という考え方

世の中にはすでに、デジタルとの距離を考える議論が多くありました。

カル・ニューポートは、2016年の記事で「デジタル・ミニマリズム」という考え方を説明しています。自分の生活に価値をもたらすデジタルの道具や使い方を見極め、価値の低いものを意識的に減らすというものです。[2]

デジタルデトックスという言葉は、PCやスマホを捨てて山に行け、みたいな過激目の取り組みを連想します。対して、デジタル・ミニマリズムはほどほどに付き合うマイルド路線かというと、研究でではどちらの方法も含まれ、二つの言葉がきれいに分かれているわけではありません。[3]

完全にやめる場合と、少し減らす場合を比較した研究があります。

2022年のドイツの研究では、619人を、1週間スマホを使わない群、1日1時間減らす群、使い方を変えない群に無作為に分けています。中止と削減の両方で生活満足度などの改善が報告され、削減した群では、改善がより安定して続いたとされています。[4]

ただし、これが万人に当てはまるわけではありません。自己報告を用いた一つの研究ですし、2024年に10研究をまとめた分析では、生活満足度やストレスなどに統計的に有意な効果は確認されていません。減らせば必ず気分が良くなる、とまで単純にはいえないようです。[3]

研究ではなく、実際にデジタルから離れる人は増えているのでしょうか。

英国の通信規制機関Ofcomが2026年に公表した調査では、オンラインを利用する成人の67%が、端末を使いすぎることがあると答えています。一方、成人のネット利用者の89%はSNSを利用しています。[5]

英国の調査ですが、日本でもまぁそんな感じかなという結果です。使いすぎを気にしているけど、使い続けてしまう。よく言われる「ナントカ離れ」に、デジタル離れが追加されることは今のところなさそうです。仕事も、連絡も、調べものも、娯楽も、同じ端末の中にあります。疲れた部分だけを取り除くのは、案外難しいのだと思います。

おすすめが上手くなれば、解決するのか

受け手ではなく、サービスを提供する側はデジタル疲れの対策をしているのでしょうか。

なんとなく、利用者がいつまでも見続けることを前提にしているサービスは、ビジネス優先で利用者が本当に求めるものは二の次というイメージです。(本当に求めるものがあるのかは別として)

ただ、YouTubeの公式説明を読むと、推薦の仕組みは視聴時間だけでなくアンケートなどを通して、利用者が動画に満足したか、見る価値があったと感じたかも測っているとしています。[6]

そんな感じで、ビッグファイブ理論などでAIレコメンドの精度を上げて、もっと各個人に合う動画を出してもらえれば疲れを感じなくなるのでしょうか。

たしかに、探す手間は減るかもしれません。でも、良い動画が次々に出てくれば、いつまでも見続けることに変わりはありません。

それに、「この動画は見てよかった」と「今日は、この時間をYouTubeに使ってよかった」は、ちょっと違う気がします。一日のトータルとしては、他のことをやった方が満足感があるかもしれません。

サービス側が満足度を考えていたとしても、私の生活全体の都合まで一致するとは限らない。そのあたりに、難しさがある気がします。

もし、同じような疲れを感じる利用者が増え、使い方や収益にも影響するようになったら、おすすめの精度を上げるほかにも、提案する件数を絞ったり、「今日はここまで」と終わりを作ったりする方向があるかもしれません。専門の編集者やインフルエンサー、有料サービス、AIに選別を任せる方法も考えられます。

たくさんの候補が見つかることと、少ない手間で目的を達すること。両立することは今の技術では難しいです。いずれそこも解決されるとは思いますが。

結局、判断するのは自分です。少数に絞られた候補を見て、「本当にこれでいいのか」と別の候補を探し始めれば、また同じところに戻ってしまいます。

とりあえず「今」だけでいいのかもしれない

冒頭で、Xやインスタなどを意識的に見ないようにしたと書きましたが、それ以前も、よく使う人に比べたら使ったうちに入らないくらいの利用量でした。それでも、見なくなったときには解放感がありました。量が少なくても、私にとっては負担だったのでしょう。これは続けてたらヤバい、という感覚は、当時かなり強かったです。

めんどくさくなっただけでしたが、仕事や創作を行う前の情報探しを減らしたことで、その時と同じ開放感を感じています。

とりあえず進める。試す回数を増やす。先の計画を細かく立てすぎない。やってみると、次に知りたいことも具体的になります。始める前に、自分に合う完璧な方法を探し続ける必要はほぼ無い、というのが今の心境です。案ずるより産むが易し。大昔に答えは出ていたようです。

調べるにしても、情報の選別は最低限です。AIの進歩を見ていると、任せられるところは任せたほうがいいと思うようになっています。それだけでなく、ネットで近道を探すより、一次情報に当たり、関係しそうな本を読む。そのくらいでも十分です。ネットの海に、私が求めているものは思っていたほど多くなかったのだと感じています。

ここで、「情報を減らすことで、もっと良い自分になろう」と考え始めれば、また最適なやり方探しになりそうなのが怖いところです。デジタルとの距離の取り方まで、改善の対象にしてしまう。まぁ、これはデジタル疲れうんぬんより個人の意思の問題感が強いので、今は気にしないでおきます。

本屋の書棚を見れば、今でも、どこかに良い一冊があるかもしれないと思います。出会えなかった本の中に、今の自分に必要な言葉があった可能性も、なくなりません。

ただ、それを確認し終える日は、たぶん来ないのでしょう。

とりあえず「今」、一冊を選んで読んでみる。その先でまた気になることができたら、探してみる。ネットの情報とも、そのくらいの距離で付き合っていけたらと思います。


注釈

  1. Oliver Burkeman, Treat your to-read pile like a river, not a bucket。著者公式サイト。未読の蓄積と、読む価値のある情報自体の多さについて。

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  2. Cal Newport, On Digital Minimalism(2016年12月18日)。著者公式サイト。本稿では書籍そのものではなく、こちらの記事を参照。

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  3. Ramadhan et al., Impacts of digital social media detox for mental health: A systematic review and meta-analysis(2024)。10研究を統合。抑うつ症状には統計的に有意な改善がみられた一方、生活満足度・ストレス・精神的ウェルビーイングには有意な効果が認められなかった。研究ごとに介入方法や対象者は異なる。

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  4. Brailovskaia et al., Finding the “sweet spot” of smartphone use: Reduction or abstinence to increase well-being and healthy lifestyle?! An experimental intervention study(2022)。本文の紹介はルール大学ボーフムの公式記事 Fewer smartphones, more well-beingに基づく。619人を無作為に3群に分け、1週間の介入後、直後・1か月後・4か月後に調査した。

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  5. Ofcom, Passive social media use, AI companionship, and online side hustles: UK adults’ media and online lives revealed(2026年4月2日)。主な定量調査は、2025年9月29日~11月28日に英国の16歳以上7,533人を対象に実施。本文の67%と89%はオンライン利用者についての数値であり、日本の利用実態や、利用時間の減少を示すものではない。

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  6. YouTube公式ブログ、On YouTube’s recommendation system(2021年9月15日)。視聴時間、アンケート回答などを推薦に用いるとする企業側の説明。利用者の生活全体への効果を検証した研究ではない。

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Title
もっといい情報が、どこかにある気がする
Published
2026/10/24